はじめに
日本には地域に根ざした多彩な伝統の衣食住スタイルが存在する。それは地域の歴史風土に密接な関係を持ちながら成立し、しかもバラエティに富んだ表情豊かな良き習慣が受け継がれ、現在もその地域性の象徴的存在として継承されている。
しかし、自身がこれまで関わってきた、食と器のデザイン研究や道具研究会 の活動を通じて実感した事実であるが、日本人の生活スタイルや経済性の変化によって、便利さと引き替えにそのスタイルが失われ、画一化され地域の土着性が喪失しようとしている現実がある。そもそも生活文化の形成は、これまでのデザイン活動と大きく関わりを持ちながら形成されてきたが、人が長い時間をかけて創り上げてきたデザイン文化を、ほんの数十年で喪失する恐れがある。
本研究はこのような現状を把握し、これからのデザインのあり方について考察するための一例として、昔ながらの形を残しつつ変遷を続けている「棒手振り」(ぼてふり:魚売りの行商)等の職に注目した。
「棒手振り」は、その様相に古くは江戸時代からの面影を残し、食と器のデザイン研究においても、地域経済、歴史、伝統行事、さらには人々のコミュニケーションに重要な役割を果たす存在として注目した。この「棒手振り」のような存在は、かつては日本各地に当然のごとく見られたが減少の一途をたどり、現在では限られた地域にのみ存在している。
本研究では、この消滅しつつある文化として「棒手振り」等の魚の行商について調査し、これらの現状について分析、把握し報告する。さらにこの存在が、現在の街作りや人と人とのコミュニケーションなどにおいて重要視される側面から、そのデザイン性に注目し多彩な食文化研究を軸に、街作りを含めたトータルデザインへの志向性と、歴史により培われた日本の伝統文化を結びつける将来のデザイン研究のあり方についての一考察として提案することとする。