第4章「棒手振り」等の再評価

4.1 街づくりと「棒手振り」等

 現在、棒手等の行商は非常に少なくなっており、漁協関係者に尋ねると、高齢の者が多いため、行商姿が見られるのはもう数年ではないかと、懸念する人もいる。確かに時代は移り変わり、現在社会においては直接活躍の場が失われつつあるが、最近では地域性の象徴として、また人のコミュニケーションを取り持つ重要な役割として、高齢化社会における地域経済のあり方を考える上で今回紹介した行商などの見方も変わってきている。実際に毎日の行商は、街で声を掛け合う関係が生まれ、売り手と買い手の相思相愛の関係が成り立っている。実に地域のお年寄り達の良き話し相手になり、毎日の相談も出来るし、1日の楽しみにもなっている。人と商業と行政の関係を取り持つ存在として、個性ある街作りを実現する意味で地域性と食文化のベーシックなデザイン思想として再評価する価値があると考えられる。


4.2 「棒手振り」等の再評価

 「棒手振り」等は以前、魚介類販売(物流)の担い手であったが、現在社会ではその存在自体が不可能になりつつあるが、別の視点から現代社会に重要な役割を担う点で以下のように再評価することが出来る。
(1)街の人々のコミュニケーションを繋ぐ役割を担うこと。(2)地域性や歴史性が感じられる(画一的ではない)オリジナリティがあること。(3)高齢者の仕事に関する生き甲斐を持てること。また健康増進のために営むことが出来ること。(4)食品に対する信用と関心を、売り手と買い手の関係から見出せること。(5)売り物に地域性と季節感があり、個性的な街作りや日常生活の楽しみを創出すること。

 これらの点は、現在の街づくりが抱えている、高齢化社会に対応する生き甲斐の再発見や地域性の創出などなど今後の街づくりが抱える問題に対して、これまでの効率化一辺倒の発想を転換し、人を育てる街づくりの発想や高齢化に向けたコミュニケーションデザインを模索するヒントになればと考えている。これからの街作りや人々のコミュニケーションをはかる社会構造の構築など、コミュニケーションのデザインを計画の中で取り入れ、業態や商業形態、物流なども考慮したデザインマネジメントにつなげる思想が必要になってくる。

 そこで重要になるのは長年かけて培われた日本の文化を良い形で人々に継承してもらうこと。信用できる人と人との関係や、顔の見える関係を創出できる売り手の経営努力なども含め、街づくりのデザイン思想として再認識する必要性がある。また行政も、形に見えるものだけではなく、街の中で展開されるソフトの充実を志向するデザイン思想が重要であり、大きな費用を投じずとも出来る活動として、その地に根付くデザインの意識を育て、住民参加型による街づくり構想を模索するなどは、自治に関する個性が問われ、行政の果たすべき大きな課題であると考えている。


4.3  おわりに

 コンビニエンスストアの文化が経済・社会の中に大きく浸透し、巨大なマーケットの中で効率よく運営され一元化されたサービスを受けているこの時代に、伝統的で個性のある小売店や行商が存在してゆくには困難があり、もはや過去にも帰ることは不可能である。本研究で紹介した棒手振り等の行商についても、そこから直接何かを学び取るなり応用できるものではない。しかし、かつては確実に存在し、街の人々の活力を表出していた職業であり、現在の日本が失った地域コミュニケーション文化の重要性がそこにある。

本研究の成果は、日本人が失いつつある、思いやりの心、気遣う心、もてなしの心など食文化のデザイン研究を通じて再認識し、今後の地域計画や社会システムの構築において様々な関係性をデザインするための一助となる研究報告となれば幸いである。今後はさらに他の地域を対象に調査を広げ、より充実したデザイン文化としての報告と保存を研究したいと考えている。


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「棒手振り」などの行商に関する調査と、そのデザイン性についての考察
ー食と器のデザイン研究に関連してー